2022年4月開催 アンコール配信
筑波大学 松井崇先生 特別講演
「メタボロミクスを活用したスポーツ脳科学研究
:運動-認知インタラクションの神経機構解明に向けて」

順天堂大学大学院 斉木臣二先生 特別講演
「パーキンソン病患者における血液メタボローム解析」

ウェビナー概要

2021年に配信し大変ご好評をいただいた以下2つのご講演を再配信させていただきます。

筑波大学 松井崇先生
「メタボロミクスを活用したスポーツ脳科学研究
:運動-認知インタラクションの神経機構解明に向けて」

= 要 旨 =
運動が脳にもたらす有益な効果や身心機能(有酸素能や認知)の関連が明らかになり始め、「運動−認知インタラクション」として注目される。身心機能を司る脳は主なエネルギーを糖質に依存することから、脳糖代謝が運動−認知インタラクションに寄与すると想定できるが、運動により脳糖代謝がどう機能し、適応するかは大部分が不明である。
アストロサイトに局在する脳内唯一の貯蔵糖質・グリコーゲンは、神経のエネルギーや修飾因子となる乳酸の生成源として記憶機能に役立つ。私どもは、長時間運動がラット脳のグリコーゲン減少と乳酸上昇を中枢疲労因子(低血糖やセロトニン代謝)と関連して引き起こし(J Physiol、2011)*1、脳のグリコーゲン分解と乳酸輸送の阻害が持久性と脳ATPを低下させることをメタボロミクスを活用しながら見出した(PNAS、2017)*2。これらの結果は、脳グリコーゲンが神経のエネルギーとなる乳酸の産生・供給を通じて運動持久性に役立ち、その代謝破綻が機能低下(中枢疲労)の原因となることを初めて示唆する。
さらに、一過性運動後のグリコーゲン超回復が骨格筋と同様に脳でも生じ、4週間の慢性中強度運動が海馬グリコーゲン貯蔵を高めることを見出した(J Physiol、2012)*3。加えて、II型糖尿病ラットで低下した空間認知と海馬グリコーゲン代謝は、4週間の慢性中強度運動により高血糖とは独立して改善された(Diabetologia、2017)*4。これらのことから、脳、特に海馬のグリコーゲン代謝適応が運動で高まる認知機能を担う可能性がある。
今回は、運動持久性を高める「グリコーゲンローディング」の脳への効果(Sci Rep、2018)*5やメタボロミクスを用いた脳グリコーゲン動態のバイオマーカー探索研究についても触れながら(Front Neurosci、2019)*6、運動−認知インタラクションを担いうる脳グリコーゲンとその応用可能性について議論できれば幸いである。

*1 Matsui T et al. (2011), Brain glycogen decreases during prolonged exercise. J Physiol, 589: 3383-93.
*2 Matsui T et al. (2017), Astrocytic glycogen-derived lactate fuels the brain during exhaustive exercise to maintain endurance capacity. Proc Natl Acad Sci U S A, 114: 6358-6363.
*3 Matsui T et al. (2012), Brain glycogen supercompensation following exhaustive exercise. J Physiol. 590: 607-16.
*4 Shima T & Matsui T et al. (2017), Moderate exercise ameliorates dysregulated hippocampal glycometabolism and memory function in a rat model of type 2 diabetes. Diabetologia. 60: 597-606.
*5 Soya M & Matsui T et al. (2018), Hyper-hippocampal glycogen induced by glycogen loading with exhaustive exercise. Sci Rep. 8: 1285.
*6 Matsui T et al. (2019), Tyrosine as a Mechanistic-Based Biomarker for Brain Glycogen Decrease and Supercompensation With Endurance Exercise in Rats: A Metabolomics Study of Plasma. Front Neurosci. 13: 200.

順天堂大学大学院 斉木臣二先生
「パーキンソン病患者における血液メタボローム解析」

= 要 旨 =
パーキンソン病(PD)は患者数がわが国で16万人程度の神経変性疾患で、黒質ドパミン神経細胞・末梢器官への自律神経の変性を主徴とする全身性疾患である。障害されるニューロン・その構造物にalpha-synuclein沈着を認めることが病理学的な特徴とされる。我々は、低侵襲で精度の高いPDの診断・進行モニタリング・薬効評価バイオマーカーを特定するため、2011年より血漿/血清代謝産物に着目し、検討を進めている(JNNP 87:295, 2016; Sci Rep 7:7328, 2017; Neurology 90:e404, 2018; Ann Neurol 86:251, 2019; Mov Disord 35:1438, 2020など)。本講演では、我々が網羅的メタボローム解析データを端緒として、どのように研究を進めているかを概説する。

Hatano T & Saiki S et al. (2016), Identification of novel biomarkers for Parkinson’s disease by metabolomic technologies. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 87(3): 295-301.
Saiki S et al. (2017), Decreased long-chain acylcarnitines from insufficient β-oxidation as potential early diagnostic markers for Parkinson’s disease. Sci Rep. 7(1): 7328.
Fujimaki M & Saiki S et al. (2018), Serum caffeine and metabolites are reliable biomarkers of early Parkinson disease. Neurology. 90(5): e404-e411.
Saiki S et al. (2019), A metabolic profile of polyamines in parkinson disease: A promising biomarker. Ann Neurol. 86(2): 251-263.
Takeshige-Amano H & Saiki S et al. (2020), Shared Metabolic Profile of Caffeine in Parkinsonian Disorders. Mov Disord. 35(8): 1438-1447.

再配信のため、講演内容に関するご質問にはお答えできませんのでご了承ください。

 

日程・参加費用

日程
2022年 4月 20日(水)14:00~15:45
使用するツール
Zoom
定員
先着順 300 名
参加費用
無料

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当日までの流れ

ウェビナー当日までの流れ
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講演者情報(2021年ご講演当時の情報となります)

松井 崇 先生

【ご所属】

  • 筑波大学体育系 助教(運動生化学)

【ご略歴】

  • 1984年 筑波大学附属病院生まれ。その後、京都→東京で幼少期を過ごす。
  • 元日本代表候補の父の影響で5才から柔道を嗜む。五段。
  • 神奈川県桐蔭学園高校時代にインターハイ準優勝(2002)、筑波大学時代にマカオ国際大会優勝(2005)など。
  • 2007年 筑波大学体育専門学群 卒業
  • 2012年 筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻修了 博士(体育科学)
  • その後、日本学術振興会特別研究員SPD(新潟医療福祉大学健康科学部)、スペイン国立カハール研究所神経生物学部門ポスドク、客員助教を経ながら「スポーツ神経生物学」を推進、2015年より現職
  • 2017年〜 全日本柔道連盟科学研究部基礎研究部門長として「柔道生理学」を展開
  • 2020年〜 筑波大学スポーツイノベーション開発研究センターでスポーツIT分野長として「eスポーツ科学」を主導

斉木 臣二 先生

【ご所属】

  • 順天堂大学大学院 医学研究科神経学 准教授(医局長)

【ご略歴】

  • 1999年3月 京都府立医科大学医学部医学科卒業
  • 1999年4月 金沢医科大学内科研修医
  • 2001年4月 金沢医科大学神経内科助手(廣瀬源二郎教授)
  • 2005年7月 英国ケンブリッジ大学研究員(Prof. David Rubinsztein)
  • 2008年4月 順天堂大学脳神経内科助手(服部信孝教授)
  • 2011年4月 順天堂大学大学院医学研究科神経学准教授
  • 2020年4月 同医局長
  • 現在に至る。