ABC’s of Metabolomics

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たかが3回、されど

こんにちは、HMTの大賀拓史です。

先日、鶴岡では天神祭が催されました。「化けもの祭り」とも呼ばれるこのお祭りでは、長襦袢を身にまとった参加者が編みがさと手拭いで顔を隠して「化けもの」に扮し、街を無言で練り歩きながら見物客にお酒やジュースを振る舞います。かつて大宰府に流された菅原道真公を悼みつつ、一方で当時の権力者に身元が分からない様にと、顔を隠してお酒を酌みかわしたのがその由来だとか。聞くところによると、3年間、友人知人に変装を見破られることなく天満宮にお参りができた暁には、願いごとが叶うのだそうです。今年は、どれくらいの方が念願の3度目を達成されたのでしょうか。

ところで、お願いごとというと、何故かやたらと3回という条件がつきますよね。三度目の正直、お三度参り、それから、流れ星に願い事を唱える数も。その内容にもよりますが、願い事を託すのにたったの3回だけ、というのは些か心許なく感じませんか?

さて、科学の世界では実験結果の再現性を確認するため、複数回の実験や検体の採取を行いますが、こちらでも、3回というのが一般的に求められる最小数ではないでしょうか。…

[第1回メタボロミクスと統計解析] オミクスデータの判別

バイオメディカルグループ(統計解析)の山本博之です。

HMTに来て2年目ですが、学生の時からメタボロームデータのための多変量解析手法の開発など、統計解析に関する研究に取り組んできました。膨大なデータが得られるオミクスでは、得られたデータをどのように解析するか、が非常に重要となります。これから1年間、統計解析について、特にメタボロームデータなどのオミクスデータを扱う際に起こりうる、この分野特有の問題点や、統計関連の学会参加報告などを書いていく予定にしていますので、よろしくお願いします。

初回は5月20日~22日に日本計量生物学会の年会に参加し、その様子をご報告する予定だったのですが、残念なことに新型インフルエンザの影響で学会が中止になってしまいました。そこでその代わりと言ってはなんですが、今回はオミクスデータの判別問題について少しご紹介したいと思います。…

絶食後の代謝変化

こんにちは、HMTの大賀拓史です。こちら鶴岡は、お休みのあいだ良い天気に恵まれていました。

日曜日で大型連休も終わり、今日からはまたバリバリお仕事を、という方もたくさんいらっしゃるでしょうか。一方で、体も心もすっかり「お休みモード」になってしまい、なんだか仕事に戻れない...なんて方もいらっしゃるかもしれませんね。

いくら頭では必要だと分かっていても、いきなり全力でというのは、ちょっとしんどいものです。まずは準備体操がてら、ちょっとした作業で気持ちを切り替えたりするのも良いかもしれませんね。

HMTでは上手い具合に、今日はお仕事の前に、定期の社内清掃がありました。休みボケの頭を回し始めるには、ちょうど良い作業量だったようです。

「作業量」を意味する「load」という単語ですが、実験では「負荷」という表現で使われたりします。ある一定の状態に、外部から刺激やストレス、つまり負荷を与えて、それに対する応答を見る、という実験はよく行われますよね。…

ヨーロッパのメタボロミクス (前編)

こんにちは。バイオメディカルの大橋由明です。

3月末に1週間、ヨーロッパ各地でメタボロミクスを語って参りました。

大手の食品・製薬・分析機器会社・大学を回り、さらにNVMS-BSMS 2009というベネルクス質量分析国際会議(オランダ質量分析学会とベルギー質量分析学会の合同会議)でポスター発表を行いました。スイス、ドイツ、オランダ、フランスの順にヨーロッパ大陸を縦に横にと移動の毎日でしたが、ヨーロッパの研究者がメタボロミクスに寄せる期待を大いに感じる旅となりました。今回のブログでは、会議の報告と、食べ物の話題などを2回に渡ってお伝えします。ちょっと研究の手を休めて、お付き合いください。…

疾患のリスクが2500円で分かります

こんにちは HMTの大賀拓史です。

今年はすでに関東と九州で開花宣言が出たそうですね。鶴岡も気持ち良い晴れの日が多くなってきましたが、まだ時折、思い出したかのように雪が降ったりもします。

さて突然ですが、もし自分のゲノム情報を知ることができるとしたなら、いくらまでなら払おうと思われますか?…

代謝プロファイルから示されるサルコシンの前立腺がん 進行への関与 (Nature誌)の逆説的解釈(後編)

こんにちは。バイオメディカルグループの大橋です。東京は春の陽気だそうですね。

先週に引き続き「代謝プロファイルから示されるサルコシンの前立腺がん進行への関与 (Nature誌)」について、メタボロミクスの研究者として、どのようにこの論文を解釈しているかについての私見を述べてみたいと思います。

前編は[こちら]

みっつめのポイントは、組織メタボロミクスデータからサルコシンという物質への絞込みです。組織のメタボロミクスデータから変化している代謝物質を絞り込む過程は、多くの容疑者から真犯人を割り出すようにスリリングです。

使われている手法も適切ですし、permutationという数値置換群によるテストを行い、妥当性も検討しています。著者らは、まず良性腫瘍 (benign)と悪性腫瘍 (PCA)を比較し、37種のアノテーションの付いた代謝物質を抽出します。ここで、未同定ピークには目もくれないところから、生化学的合理性に主眼を置いていることが読み取れます。…

代謝プロファイルから示されるサルコシンの前立腺がん 進行への関与 (Nature誌)の逆説的解釈(前編)

こんにちは。バイオメディカルグループの大橋です。

2月12日号のNatureに”Metabolomic profiles delineate potential role for sarcosine in prostate cancer progression”という論文が発表されました。論文の内容については[こちら]をご覧ください。

大学院ではよく、「論文は批判的に読め」と指導されます。これは、「人の論文のアラを探せ」という意味ではなく、論文に書かれている研究結果やその解釈について、自分の経験と照らし合わせて本質的なものとそうでないものを区別しろという意味です。そのような意味で、論文の行間を読みながら本質を見抜いていくのは容易でありません。

このNature論文は、いろいろなところで紹介されていますが、強調されている点は様々です。解釈は十人十色だということでしょう。また、多くの人から解釈についていろいろ問われます。これは、この論文がこれまでに有名雑誌で紹介されたメタボロミクス関連論文とは明らかに違う価値があると多くの人が感じていることを示しています。

そこで、メタボロミクスの研究者として、どのようにこの論文を解釈しているかについての私見を述べてみたいと思います。…

メタボロームと男と女

こんにちは HMTの大賀拓史です。

今日は「桃の節句」、ひな祭りですね。日本全国の家庭で、あるいは展示場で、たくさんのひな人形が、久しぶりの晴れ舞台に上がっていることでしょう。こちら庄内でも「庄内ひな街道」として、ひな人形の展示イベントが開催されています。

人間よりはるかに長い時間を過ごした昔のものから、ちょっと変わったスタイルのものまで、パンフレットを片手に鑑賞をしていると、自分でも意外なくらいに魅入ってしまうことができました。

こんな私ですが、昔、それこそ周りの女の子がひな人形を飾っていた時分は、人形というものに全く興味がありませんでした。自動車や飛行機といった機械モノの模型は大好きだったのですが、生き物、特にヒトの模型 (というのもおかしな言い方ですが) はむしろ苦手なくらいで。今となってはその理由も良くわかりませんが、とにかく周りの男友達と一緒に、「女はよく分からん」などと言っていたように思います。

成長した後は言わずもがな、男と女の間には幼い頃からも、大きな隔たりがあるのでしょうか?この深大なるテーマに対して、実はあるメタボローム研究が興味深いデータを出しています。…

実はよく分かっていないイソフラボンが体に良い理由

こんにちは、HMTの大賀拓史です

昨日は節分でしたね。もう、2月ですか...あえてもう一つの2月の行事には触れませんが、毎年この季節になると、お店の広告がカレンダーに代わって時の流れの早さを教えてくれます。

そういえば、私自身は最近、「豆まき」を全くやらなくなってしまいました。豆まきのやり方は地域や時代によって異なるかと思いますが、私が子供の時は、炒った大豆を部屋中にばら撒いて「年の数+1粒」を食べる、というスタイルでした。後で掃除の苦労が待っていることを知ってはいても、そこは自制心より勢いが勝る幼少期の自分。結局、それから数日間、年の数よりもはるかにたくさんのお豆がおやつになったことを覚えています。

その当時は全く意識していませんでしたが、最近はこの大豆に含まれている「イソフラボン」が大いに注目されていますね。…

大統領選とサイエンス

こんにちは、HMTの大賀拓史です。

アメリカ合衆国ではいよいよ、新しい大統領の時代、新しい政治が始まりましたね。経済問題や国際政治など、かの大国がどう変わっていくのか気になる点はたくさんありますが、個人的には、新しい政府がサイエンスに与える影響、という点が興味深いところです。

近代の歴史を振り返ると、宇宙開発や胚細胞の研究など、それぞれの時代でアメリカという国家の方針、あるいは大統領の意見は、世界の科学研究の方向性に大きな影響を及ぼしてきたように思います。もちろん、これまでも現在も、世界の研究の方向性がアメリカ一国で決まる、というようなものではありませんし、今後もそうだろうと思います。それでも、やはり今後のサイエンスの方向性や流行を考えてみるとき、かの国の政策が持つ影響力は、大きなものではないでしょうか。…

メタボロ太郎なう

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