ABC’s of Metabolomics

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Metabolomics2009 – バイオメディカルレポート(後編)

バイオメディカルグループの大賀です。International Conference of Metabolomics Society レポートの後編です。前編はこちら

世界的なメタボロミクスの動きとしては、大規模なコホート研究が始まりつつあることを強く感じました。イギリスの Manchester大学が主導するHUSERMETプロジェクトでは、3000 人以上の検体採取を既に完了したそうです。また、カナダの Alberta 大学が主導するプロジェクトでは 50,000 人の成人を対象とした栄養学的な研究が開始されているそうです。メタボロームの個人差や日間差をきちんと把握するためには、どうしても数千・数万人規模の研究が必要になります。上記のコホート研究から得られた結果は、今後のメタボロミクス研究において重要な基礎データを提供してくれるはずです。また、 Manchester 大学のプロジェクトには複数の海外大手製薬メーカーが参加しており、メタボロミクス研究から大きな産業価値が生み出されることが期待されます。…

Metabolomics2009 – バイオメディカルレポート(前編)

バイオメディカルグループの大賀です。先日開催された International Conference of Metabolomics Society に参加してきました。出来るだけ研究者からの視点で、学会の概要と感想をお伝えしたいと思います。

今年の参加者はおよそ 300 人。多すぎない人数ということで参加者同士のコミュニケーションが取りやすく、また顔なじみの参加者同士が多いこともあってか、会場のあちこちで常に活発なディスカッションが繰り広げられていました。また、口頭発表は同時刻に1 演題だけが行われ、会場にぎっしりと並べられたイスはいつも満席でした。 (写真は開場前の、緊張感だけが漂う会場の様子です。) 今回の会期中、カナダはこの季節にしては珍しい快晴続きだったのですが、私が感じた熱気は、天気だけのせいではなかったはずです。

口頭・ポスター共に、発表数が最も多かったのはバイオマーカー探索に関する研究でした。ただし一口にバイオマーカーといっても目的は病気の診断に限らず、薬物毒性や栄養状態、あるいは「健康とされる状態の再定義」など多様で、とにかく生命の様々な側面をメタボロミクスというメガネで見つめ直そう、という大きな流れを感じることができました。

その中でも疾患バイオマーカーの研究は特に盛んで、ガンから精神疾患まで多岐に渡っていました。しかし、今回の発表内容の多くは少数被験者やモデル動物を対象とした基礎研究であり、またその結果も、統計処理で疾患群を区別できた、あるいは疾患群を区別する単一物質をマーカー候補として発見したという段階で、今後は実用化に向けてのバリデーションが求められます。一方で少数ながら、病院と提携して既に実用化を見込んだ臨床研究を進めているグループがありました。この先、広く注目されている疾患に関しては、まさに早いもの勝ちといった、熾烈なマーカー探索の競争が予想されます。

バイオマーカー探索以外では、植物メタボロミクスに関する研究の発表が多くされていました。特に、メタボロミクスによる遺伝子機能の探索 (機能ゲノミクス) は世界中で盛んに行われているようです。今回の学会ではこの分野のトップランナーとして、日本から理研の斉藤先生が招待講演をされていました。また、作物や薬物、嗜好品としての植物生産にメタボロミクスを活用する動きに関しては、欧州、東アジアから研究成果の発表がありました。

微生物分野に関しては、酵母の機能ゲノミクスに関する研究が注目されていました。一方、私が密かに期待していた醗酵や生産に関しては、残念ながらほとんど発表がありませんでした。この分野は日本のお家芸ですので、今後はぜひ、日本の研究者に世界を牽引していただきたいと思っています。

Uk Solar Power Experiment

個人的に注目した分野は、メタボロミクスによる環境調査、です。例えば、土壌調査にはミミズの、水質調査にはミジンコのメタボロミクスが行われていました。土や水の単純な成分組成とは異なり、生体の代謝に反映される成分環境という観点を持つことで、生物にとっての環境というものを定義し直すことができるようです。研究自体はまだ始まったばかりとのことですが、今後の発展と、またその他の生物を使った環境調査への広がりも期待することができます。

Metabolomics2009 – バイオメディカルレポート(後編)では初日に行った口頭発表についてお届けします。

Metabolomics2009 その他のレポート

社長レポート

バイオインフォマティクスレポート

-バイオメディカルレポート後編

出展レポート

国別発表数と発表テーマ

Metabolomics2008のレポートはこちらから

発表の傾向

社長レポート

Metabolomics 2009 社長レポート-Metabolomics2009で感じたこと

社長の菅野です。8月31日から9月2日にかけて恒例のメタボロミクスソサイティ主催の学会がカナダのエドモントンで開催されました。現地で感じたことをお伝えしますのでそのフレーバーを感じていただけたら幸いです。

参加者はカナダということもあって若干減ったようですが、メタボロミクスの拡大の勢いはすさまじく、まさに旬を迎えた技術というところでしょうか?…

[第1回:マルチオミクス] ポストゲノムと次世代シーケンサー(前編)

バイオメディカルグループの篠田です。今回は、ゲノミクス、話題の次世代シーケンサーについてです。

次世代シーケンサの開発競争は激しく、ロシュの454、イルミナ社のGenome Analyzer、アプライド社のSOLiDなどが競っており、最新の情報に追いつくだけでも大変なように感じます。シーケンスやPCRの原理も各社で異なります。

しかし、基本となる「コンセプト」は、とても似通っています。…

夏のたのしみ ― ビールのメタボロミクス

こんにちは、HMT の大賀です。なんだかご無沙汰しておりました。

こちら鶴岡では、庄内名物の「だだちゃまめ」が美味しい季節になりました。見た目は普通の枝豆なのですが、一口食べるとその濃厚な味わいにびっくりですよ。お取り寄せで味わうことも出来るようですが、できれば現地で夏の景色と一緒に楽しんでいただきたいものです。

さて、枝豆といえばそのパートナーは、やっぱりビールでしょうか。いやぁ、ビールが美味しい季節になりましたね。

ご存知の方も多いかと思いますが、ビールは酵母の醗酵、つまり代謝によって生み出される飲み物です。原料のでんぷんが分解されて小さな糖が作られると、酵母はそこから化学的なエネルギーを取り出すための代謝を動かします。

その際に、酵母にとっての副産物としてエタノールが作られるのですが、人間にしてみればこれこそが大いなる恵み。ビールが発見されたのは古代エジプトという説があるそうですが、その時代の人達にはそんな原理なんて分かってなかったでしょうね。醗酵食品の多くに当てはまるのことなのですが、初めてビールを口にしたチャレンジャーは、本当に偉大です。…

シロイヌナズナと統合オミクス

今年入社した分析グループの藤森玉輝です。

博士研究員の時は、DNAマイクロアレイやアジレント社のCE-MSを使って植物の一次代謝の研究をしていました。植物のメタボロミクスの研究成果は、生産性の高い農作物の作製、薬学的に有用な物質の生産、環境浄化など非常に重要かつ多様な分野に生かすことができる可能性を秘めており、大変興味深いです。

これからは植物の代謝物に関する様々な研究を紹介していく予定にしていますのでよろしくお願いします。

生命現象を理解するためにはメタボロミクスが重要であることは当然ですが、さらにトランスクリプトミクスと組み合わせることで、理解をより深めることができます。

しかしながら、統合オミクスの力を最大限に発揮した研究例はまだ少なく、現状ではトランスクリプトミクスとメタボロミクスをして考察する論文が標準的です。これは、統合オミクスを駆使してエレガントな研究を行う方法がまだ確立されていないからです。

統合オミクスの研究方法については今後も考え続けていかなければいけませんが、まず統合オミクスとして成功した論文を読んで学ぶのが誰にでもできる一番簡単な道です。そこで、今回は4年前の論文になりますが、理化学研究所植物センターのグループがモデル植物であるシロイヌナズナで統合オミクスをエレガントに使った研究を紹介したいと思います。…

[第2回メタボロミクスと統計解析] メタボロームデータと多変量解析

バイオメディカルグループ(統計解析)の山本博之です。

細胞内での現象はほとんどの場合、1つの代謝物質によって説明されることはなく、複数の代謝物質とそのネットワークによって説明されます。よって、複数の変数(代謝物質)を使ってデータを表現する多変量解析がその道具として用いられるのは、比較的自然なことだと思います。メタボローム解析では特に主成分分析が用いられる事が多く、論文等でその計算結果を目にされたことのある方も多いと思います。

オミクスデータのような高次元データは視覚的に人が理解できないので、何らかの形で視覚化することが有効です。主成分分析は高次元データを1次元に射影し、その上での分散が最大になるような射影方向をいくつか求め、それらの軸を用いて視覚化します。1次元上での分散が大きな主成分軸は、一般的にデータを良く表現する軸であるとしばしば説明されます。しかしこれは少し説明不足です。…

【研究者インタビュー】先端生命科学研究所伊東卓朗研究員

先端生命科学研究所でオイル産生微細藻プロジェクトを推進している伊藤卓朗研究員にお話をお聞きしました。伊藤さんの専門は植物メタボロミクスで、2006年から鶴岡メタボロームキャンパスでCE-TOFMSとLC-TOFMSを使ってオイル産生微細藻の研究をされています。今回は伊藤研究員の研究テーマであるエネルギー問題への藻類の利用についてうかがいました。

HMT主催セミナー「急激に進化する メタボローム 解析の威力」を 開催しました

HMTの井元淳です。現在はトキシコロジー学会出展のため盛岡に来ています。東京よりは涼しいです。

レポートが随分遅くなってしまったのですが、6月26日に品川イーストワンタワーでセミナー「急激に進化するメタボローム解析の威力」を開催しました。定員を上回る100名弱の皆様に参加いただき、質疑応答も活発に行われ、非常に盛り上がったセミナーとなりました。

HMTが主催してこのように大規模なセミナーを行うのは初めてのことだったので、何かと至らぬ点も多く、ご参加いただいた皆様にはご不便をおかけする点もあったかと思いますが、アンケートではほとんどのお客様に満足したと答えていただき、ほっとしています。

各先生方のお話をざっくりとまとめると、
Chris Beecher教授は、「メタボローム解析は有用だが、メチル化というコンセプトマッピングがなければ、サルコシンには行き着かなかった。多くの情報を集約することでメタボロームデータが活きてくる」
川村則行先生は、「精神疾患を分子的アプローチで解き明かすのは、困難だが可能になってきている。血中のペプチドおよび代謝物質の網羅的比較は、現実としてうつ患者と健常者を正確に分離することができている。精神疾患の分子診断は、すぐそこまで来ている」
鈴村謙一先生は、「機器の扱い方で難しい面もあるが、総合的に判断してCEの網羅性は高い。GCかLCに、CEを付け加えることで、メタボローム研究のアプローチは大幅に補完されるのではないかと感じる」
といった内容でした。

今後もこのようなアプリケーションをご紹介するセミナーを開いていきたいと思っています。今回はご都合がつかなかった皆様も、ぜひ次回ご参加いただけたら幸いです。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。…

[プロローグ:マルチオミクス] なぜ”ほかのオミクス”が必要か?

バイオメディカルグループの篠田です。

学会やセミナーにいくと、HMTのブログ見てます!という声をちらほらと聞いて、うれしく思っています。もっと読者が増えるように、皆さんのお役にたつ技術情報を書いていきます。まずは、隔月の6回シリーズで「ほかのオミクス」について書いていきます。

今回はプロローグとして、「なぜ”ほかのオミクス”が必要か?」がテーマです。…

メタボロ太郎なう

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