プラスミド保持によりメチロトローフ生育遅延が起こるメカニズムの解明

プラスミド(染色体外遺伝子)を保持する生物では、そのプラスミドの大きさと生育遅延には相関関係があります。また、プラスミドにコードされている抗生物質耐性遺伝子も生育遅延に影響を及ぼすことが明らかになっています。しかしながら、プラスミド保持することでどのように生育遅延が起こるかについては明らかになっていません。本論文では、メタノールやメチルアミンを炭素源として生育できるメチロトローフ細菌を用いて、このメカニズムを解明しています。

概要

メチロトローフ細菌(M. extorquens AM1)とpCM80プラスミドを持ったメチロトローフ細菌の生育速度を比較した。

コハク酸を炭素源とすると生育に違いは見られないが、メタノールを炭素源とするとpCM80プラスミドを持ったメチロトローフ細菌の生育に遅延が見られた。この結果は、pCM80プラスミド保持がメチロトローフ生育特異的に生育遅延を引き起こすことを示している。

メタノール存在下では、M. extorquens AM1はセリンサイクルとエチルマロニルCoA経路を利用して生存している。pCM80プラスミドを持つことによって、これらの代謝経路の代謝中間体の量が変動するか調べるために、ターゲット代謝物解析を行なった。セリンサイクルの代謝中間体は数倍程度の変化しか見られなかったが、エチルマロニルCoA経路の中間体であるエチルマロニルCoAとメチルマロニルCoAが、pCM80プラスミドを持つM. extorquens AM1で、それぞれ35倍、6倍増加していた。

pCM80プラスミドはテトラサイクリン耐性遺伝子を持ち、この遺伝子がコードするタンパク質はコバルトイオンと高い親和性を持ち、また、エチルマロニルCoAからメチルスクシニルCoA、メチルマロニルCoAからスクシニルCoAの変換にはコバルト依存的な酵素が関与していることがすでに知られている。pCM80プラスミドを持つと、コバルトイオンがテトラサイクリン耐性の遺伝子産物に利用され、コバルトイオンが欠乏してエチルマロニルCoA経路が正常に機能せずにエチルマロニルCoAおよびメチルマロニルCoAの蓄積がされ、生育遅延が引き起こされるという仮説が考えられる。

そこで、通常の10倍量のコバルトイオンを含む培地で生育させ、ターゲット代謝物解析を行なった。pCM80プラスミドを持つM. extorquens AM1では、エチルマロニルCoAおよびメチルマロニルCoAの顕著な蓄積は見られなかった。また、培地中のコバルトイオン濃度が低い時はpCM80プラスミドを持つM. extorquens AM1と持たないもので生育に大きな差が見られたが、培地中のコバルトイオン濃度が高い時は生育の差が小さくなった。これらの結果は、上の仮説を支持するものである。

カナマイシン耐性遺伝子をコードするタンパク質はコバルトイオンとは全く関連性がないにもかかわらず、この耐性遺伝子が存在するpCM160プラスミドを持つM. extorquens AM1についても同じ実験が行なわれ、pCM80プラスミドを持つものと同様な傾向を示す結果が得られた。よって、テトラサイクリン耐性遺伝子産物のコバルトイオン要求性以外にも、コバルトイオン欠乏の原因が考えられた。

これまでの実験では、プラスミドを持つM. extorquens AM1の培地中には抗生物質を添加しているので、抗生物質が存在することによるストレスによって、コバルトイオンの取り込みが少なくなる可能性が示唆された。そこで、pCM80プラスミドを持つM. extorquens AM1で、コバルトイオン取り込みに関わる遺伝子群をまとめて過剰発現させると、通常の濃度のコバルトイオン存在下で生育の大きな改善が見られた。

以上の結果から、コバルトイオン欠乏はテトラサイクリン耐性遺伝子がコードするタンパク質によっても引き起こされるが、培地中に抗生物質が存在するストレス下でコバルトイオン取り込み能力低下によるコバルトイオン欠乏の方が影響が大きいと考えられる。また、コバルトイオンが欠乏すると、コバルトイオン依存性の酵素活性が低下して、エチルマロニルCoA経路が機能せず、生育遅延が引き起こされることが明らかになった。

Metabolite Profiling Uncovers Plasmid-Induced Cobalt Limitation under Methylotrophic Growth Conditions.
Kiefer P, Buchhaupt M, Christen P, Kaup B, Schrader J, Vorholt JA. PLoS One, 4(11):e7831, 2009

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