日程・場所
場所 | 日時 | 定員 |
梅田(大阪) | 7月10日(金) 13:40~16:20(受付開始13:30~) |
50名 |
プログラム
13:40~13:45 | ごあいさつ |
13:45~14:30 | キノコ菌糸に青色光刺激を与えて有用物質を生産する-シキミ酸蓄積メカニズムの総合解析 信州大学農学部応用生命科学科 教授 小嶋 政信先生 |
14:30~15:15 | 物質生産におけるメタボローム解析の活用 改良ターゲット絞り込みのための実践上のポイント ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 戸松 創 |
15:15~15:35 | コーヒーブレイク |
15:35~16:20 | マルチオミクス解析に基づく合理的細胞育種技術の開発 神戸大学 自然科学系先融合研究環 重点研究部 教授 蓮沼 誠久先生 |
プログラムは予告なく変更することがあります。変更した場合は当ウェブサイトおよびご登録いただいたアドレスまでご連絡いたします。
概要
日時 | 7月10日(金)13:40-16:20 (受付開始13:30~) |
会場 | AP大阪梅田茶屋町 Gルーム |
住所 | 〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町1番27号 ABC-MART梅田ビル8F |
アクセス | JR大阪駅、地下鉄御堂筋線梅田駅3分(地下街経由直結) 阪急梅田駅1分 |
定員 | 50名 |
参加費 | 無料(事前登録をお願いします) |
講演要旨
キノコ菌糸に青色光刺激を与えて有用物質を生産する-シキミ酸蓄積メカニズムの総合解析
小嶋 政信 信州大学農学部応用生命科学科キノコの生長速度や形態形成の制御、並びに含有機能性栄養成分の生合成には、光刺激が重要な役割を演じていると推察されているが、これまで光質(光波長)、光強度、明暗周期等を厳密に制御した研究報告例はほとんどなく、キノコの光応答メカニズムは不明のままである。 本研究では、発光ダイオード(LED)が持つ光源特性を利用して、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)菌糸の生長に及ぼす単色可視光の光質と光強度の影響について研究したところ、菌糸に青色光刺激を与えると(中心発光波長:470nm,光量子束密度(PFD):105μmol/m2/s)、菌糸生長が完全に抑制される現象を見出した。 青色光刺激によるヒラタケ菌糸の生長抑制現象を詳細に検討するため,青色光刺激を与えた菌糸の一次代謝産物を網羅的に解析した結果、鳥インフルエンザ特効薬として知られるタミフルの製造原料となるシキミ酸が、暗所培養菌糸と比較して飛躍的に増加していることを見出した。しかし緑色光、赤色光、遠赤色光を菌糸に照射してもシキミ酸は全く増加しなかった。 シキミ酸は、解糖系で生合成されるホスホエノルールピルビン酸(PEP)と、ペントースリン酸経路で生合成されるエリトロース-4-リン酸(E4P)との縮合反応による7‐ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシアラビノヘプトン酸(DAHP)を経由して生合成されることから、ヒラタケ菌糸への青色光刺激によるシキミ酸の蓄積は、解糖系の律速反応酵素である6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK)、ペントースリン酸経路の律速反応酵素であるグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6DP)、及びシキミ酸経路の律速反応酵素であるDAHP合成酵素の各発現量が増加したことに起因するのではないかと推定した。そこでこれら3つの酵素をコードする遺伝子(PFK:EC2.7.1.11、G6DP:EC1.1.1.49、DAHP合成酵素:EC2.5.1.54)の発現量と、各遺伝子配列を基に作成した一次抗体を用いて酵素の発現量を解析したところ、青色光刺激による遺伝子発現量と酵素発現量は、いずれも時系列的に増加することを見出した。本成果は、青色光刺激により糸状菌から有用物質を生産する新規技術としても大変重要であることを示すものであり、今後の応用が期待される。 |
物質生産におけるメタボローム解析の活用 改良ターゲット絞り込みのための実践上のポイント 戸松 創 ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社近年の分析技術の進歩により、ある時点での生体の状態を網羅的に解析する”オミクス”研究がより身近なものとなった。代謝産物を網羅的に分析するメタボロミクスはその瞬間における生体内環境を化合物の変動として描画するものであり、たとえば物質生産を行う微生物のトランスクリプトミクスによる遺伝子発現量の分析と組み合わせることで、微生物による物質生産とその制御を分子レベルで記述することができる。 このようにメタボローム解析は強力な研究ツールであるが、いざ実践となるとなかなか手を出しにくいと捉えられがちである。その理由としては、メタボローム分析を行う機器を揃えるコストが大きいこと、多変量の分析データの解析が困難であることなどが挙げられる。実際にはこれらの問題は受託解析を活用することによって解決することが可能であり、メタボローム解析を始めるハードルは高いものではない。 一方で、初めて取り組む分析に対して抱く、きちんと測定データを得られるかという不安についてはなかなか解消することが難しい。とくに、研究者自身で測定を繰り返すことによるトライ&エラーの機会が少ないオミクス解析では、ノウハウの蓄積やその伝授が困難であることが多い。 本講演では、物質生産の研究においてメタボローム解析を活用した事例を紹介しつつ、受託によるメタボローム解析の経験から見出された”物質生産の改良に向けたターゲット絞り込みに役立つデータを得るためのポイント”について論じたい。 |
マルチオミクス解析に基づく合理的細胞育種技術の開発
蓮沼 誠久 神戸大学 自然科学系先融合研究環 重点研究部植物や藻類等のバイオマス資源を液体燃料や汎用化学品に変換するバイオリファイナリーは,地球上の炭素循環の定常化や持続的なエネルギー供給を実現する方策として期待されるが,物質変換の要となる微生物発酵工程の効率化が開発のボトルネックの一つとなっている. 本研究では,トランスクリプトミクスやメタボロミクス,代謝フラックス観測技術等により細胞内代謝物の分布やターンオーバーを詳細に解析し,グローバルな細胞内情報から合理的に微生物を育種する技術を開発し,発酵能を向上させることに成功してきた。従来,オミクス解析は細胞の代謝状態をスナップショット的に俯瞰するために用いられてきたが,動的な代謝変化を観測する技術を組合せることでボトルネック反応の同定が可能となり,戦略的な微生物改変戦略の構築に有効であることが示された.代謝解析結果を基に,酵母の分子育種や進化工学的育種を駆使して細胞を高度化し,ストレス耐性の付与や物質生産能の向上を達成し,一方ではシアノバクテリアや緑藻を対象とする育種にも取り組み,糖質や脂質の生産能の増強にも成功してきた. 本講演では,以下のトピックについて紹介したい. 1.動的代謝プロファイリング技術の開発:中央代謝経路の代謝中間体を網羅的に定量する技術と,安定同位体炭素(13C)によるin vivo標識技術を組合せた「動的代謝プロファイリング技術」を開発し,代謝物の蓄積量と動的変動を同時に俯瞰することを可能にした.さらに,炭素源の細胞内への流入速度と代謝中間体のターンオーバー速度には正の相関が見られることを明らかとし,その相関係数を調べることでボトルネック反応を推定できることを明らかとした. 2.バイオリファイナリーに資する出芽酵母へのストレス耐性の付与:バイオマスを原料とする発酵では,前処理工程で生成する発酵阻害物によるストレス,冷却コストを圧縮するための高温によるストレス,コンタミネーションのリスクを回避するための低pHによるストレス,に対する高い耐性能を有する微生物の育種が求められる.本研究ではオミクス解析によるストレス応答機構の解析を行い,例えば,キシロース資化関連遺伝子を導入した出芽酵母において,酸ストレスにより酸化的ペントースリン酸回路や糖の取込みが阻害されることを見出した.次に,代謝解析の結果から微生物育種の戦略を立案し,分子育種によるボトルネック反応の強化やレドックスバランスの調整,多倍体化育種による代謝フラックスの増強,によりマルチストレス耐性株の創製に成功した.本研究で育種した酵母を用いることで,リグノセルロース系バイオマス前処理液の繰返し回分培養に世界で初めて成功し,バイオリファイナリーに資する実用的な技術であることを立証した. |