第4回 メタボロームシンポジウム

日時
2009年11月18日(水),19日(木)
会場
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校(神奈川県横浜市)
参加費
3000円(学生1,000円)
事前登録が必要です
登録締め切り:2009/10/12(月)
定員
250名
主催
独立行政法人 理化学研究所 植物科学研究センター

バイオメディカルグループ大橋由明が講演を行います。
11月19日 11:15-12:45 セッション5 微生物、寄生虫
表現型と生化学メカニズムを結びつけるマルチオミクス手法 -微生物 シグナル伝達制御の解明の例-
【要旨】
われわれがこれまでに手にしているオミクス手法は、生命活動のメカニズムを解明するための優れたツールであるが、それらをどのように組み合わせ、具体的な研究計画に組み込むかが重要である。ここでは、トランスクリプトミクスとメタボロミクスを組み合わせ、微生物の機能とそのメカニズムを解き明かした一例を紹介する。高度好熱真正細菌(Thermus thermophilus)のNdx8タンパク質は、そのアミノ酸配列情報から二リン酸の酸無水物加水分解活性を有することが予測されていた。しかし、その基質が何かは不明であった。ndx8遺伝子破壊株は、富栄養培地では野生株と同様の増殖を示すが、栄養制限培地では増殖遷移期において増殖停止および細胞凝集を引き起こす。トランスクリプトミクス解析の結果は、遺伝子破壊株において染色体複製、リボソーム合成、細胞分裂関連遺伝子の発現が抑制されていることが示された。メタボロミクス解析では、グアノシン3,5-ビスピロリン酸(ppGpp)を含む代謝物質の異常蓄積が観測され、これらがNdx8の基質候補と考えられた。精製Ndx8を用いた試験管内反応では、これら候補の内、ppGppおよびGDPに高い活性が見出されたことから、これらが細胞内でのNdx8の基質であることが判明した。最後に、ppGpp合成酵素をコードするrelAndx8遺伝子の二重破壊株を作成したところ、増殖遷移期における増殖停止は抑制された。これらの結果は、Ndx8タンパク質が増殖遷移期における栄養源枯渇情報を伝達する細胞内ホルモンppGppのレベルを調整し、細胞増殖を制御していることを明示している。このように、トランスクリプトミクスとメタボロミクスを併用し、新たな情報伝達制御機構が明らかとなった。

ポスター発表を行います。
群に順序がある時のPartial least squares
山本博之、佐々木一謹、大橋由明
【要旨】
メタボロミクスにおいて、群に順序があるデータは、例えば疾患のステージ(健常, 早期, 末期)や官能評価(おいしくない, ふつう, おいしい)のように様々な所で見られる。しかし、従来のPartial least squares (PLS)もしくはPLS-DAを用いた教師あり次元削減では、群間を良く分離することは出来ても、群の順序はスコアプロット等の結果には表れない。つまり、群に順序のあるデータに従来のPLSを適用しても、実際にはメタボロームデータの中に有用な情報が含まれているにも関わらず、その情報を十分引き出すことはできない。
そこで我々は、群に順序があるデータから有用な情報を積極的に引き出すための手法として、順序平滑化PLSを提案する。順序平滑化PLSは、PLSの制約条件に合成変数の差分ペナルティを加えた平滑化PLSを利用し、さらに群の順序を考慮するために、その制約条件に群の差分ペナルティを加えたものである。本手法は、従来のPLSと同程度に簡単に計算出来ることから実用上有用であり、またカーネル法による非線形PLSへの拡張も容易に出来ることから適用範囲が広く、有利な点も多い。
まず簡単なシミュレーションにより、PLSと比較して、順序平滑化PLSが特に群の順序に関する情報を引き出せることを示す。また実データへの適用として、ワインの官能評価におけるメタボロームデータを用いた。結果は当日報告する。

キャピラリー電気泳動-質量分析計および液体クロマトグラフィー-質量分析計による赤ワイン中の代謝物プロファイル
佐々木一謹、山本博之、赤松博美(庄内たがわ農業協同組合 月山ワイン山ぶどう研究所)
【要旨】
多くのワインは樽中やボトル中もしくはその両方である一定の期間熟成されたのちに消費される。ワインの熟成は、ワインの製造の中でも重要な過程のひとつとして考えられており、スペインなど古くからワインが製造されている地域では、熟成期間によりワインの熟成の格付けを法律で規定している。熟成中はポリフェノールの酸化や重合、有機酸のエタノールによるエステル化など様々な化学反応が生じ、ワイン中の様々な成分が変化し、風味の変化をもたらす。メタボロミクスの手法は、これらの成分の変化を総合的にとらえることが可能であり、ワインの熟成に対し、新たな知見が得られる可能性がある。本研究では、ヴィンテージワインの代謝物プロファイルを求めることにより、ワインの熟成に関与する成分の探索を試みた。
試料として、原料が山・ソービニヨンである2000年から2007年に製造された赤ワインを用いた。ワインは限外濾過したのちにキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)および液体クロマトグラフィー-質量分析計(LC-MS)にて測定した。検出されたピークをヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社が所有する代謝物ライブラリーと比較することにより、CE-MSの測定結果からアミノ酸や有機酸に代表されるイオン性物質が161物質、LC-MSの測定結果からポリフェノールなどの中性物質が49物質同定された。中でも、Petunidin 3-glucosideなどのアントシアニンが年を経るごとに低値を示す傾向が見られた。色素であるアントシアニンの減少は、ワインの熟成指標のひとつとされているワインの色調変化と一致した結果と考えられる。また、発表ではこれらの結果に対してさらに多変量解析を行い熟成に関与すると考えられる成分を絞り込んだ結果を報告する。

クロレラ及びCGF摂取による代謝への影響
永嶋淳、藤島雅基(株式会社サン・クロレラ)、大橋由明
【要旨】
クロレラは栄養補助食品として認知度も高く、その効能もメタボリックシンドローム改善作用や免疫賦活化作用、種々の慢性疾患に効果があることが知られています。またニュートリゲノミクスによる検討から、これらの作用を裏付ける結果が出てきており今後さらに精力的な検討がなされようとしています。本研究ではクロレラ摂取効果の分子的なメカニズムの解明を目的として、クロレラ及びCGF(Chlorella Growth Factor)を摂取したICRマウスの肝臓及び血漿についてメタボローム解析を行った。肝組織への影響として最も顕著に現われたのはエネルギー代謝であり、アデニル酸のエネルギーチャージ率、NADHやNADPHレベルの低下はエネルギー獲得状態に変化が生じていることを示唆した。さらにアセチルCoAやTCA回路中間体、分岐鎖アミノ酸代謝、尿素回路の挙動から、糖代謝依存型からアミノ酸、脂肪酸代謝を亢進させ効率的な代謝状態にシフトしているという仮説を得た。また血漿、肝組織の双方においてサルコシンレベルが特徴的に低下したことは5-メチルテトラヒドロ葉酸レベル増加による抗酸化作用の可能性を示唆した。クロレラとCGFの効果の傾向は同質のものであったが、CGF群ではより強い作用を持つかのような振舞いをする代謝物質が多く観察された。これらの結果よりクロレラを摂取することにより広範な領域にわたり代謝変化が起きており、このことはクロレラ摂取効果の多能性の一面を示すものと考えられる。

詳しくは第4回 メタボロームシンポジウムウェブサイトをご覧ください。

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