植物における概日リズムとミトコンドリア代謝の関係

植物の概日リズムは、明暗周期下で、光合成をはじめとする様々な生理現象を制御しています。この概日リズムには、CCA1、LHY、TOC1タンパク質が関わっており、これらのタンパク質がフィードバックループを形成することで概日リズムの調節を行なっていることが、これまでの研究で明らかにされています。

TOC1は偽反応調節因子(PRR)ファミリーの1つです。PRR5遺伝子、PRR7遺伝子、PRR9遺伝子の三重遺伝子破壊植物体(d975)は、連続光下でも、遺伝子発現レベルで不規則な概日リズムを示します。CCA1遺伝子過剰発現植物体(CCA1-ox)でも同様な表現型を示します。

マウスを用いた最近の研究では、概日リズムが正常に働かなくなると、ミトコンドリア代謝で異常が生じ、糖尿病やメタボリックシンドロームになることが示されています。しかしながら、植物では概日リズムと代謝の関連はまだ分かっていません。

概要

本論文では、概日リズムの調節に異常があるd975植物体およびCCA1-ox植物体を用いて、メタボローム解析およびトランスクリプトーム解析が行われた。

GC-MSによるメタボローム解析結果から、CCA1-ox植物体よりもd975植物体の方が、野生株と比較して大きな代謝変動を示した。

次に、明暗条件下で生育させたd975植物体とCCA1-ox植物体について、3時間毎に代謝物変動を調べた。CCA1-ox植物体では大きな変化が見られなかったが、d975植物体ではTCA回路の代謝物とアミノ酸で増加傾向が認められた。特に、リンゴ酸、クエン酸はd975植物体では測定を行なった全ての時間で増加していた。

より顕著な代謝物変動を示すd975植物体について、7時から19時まで2時間毎により多くの代謝物変動を調べた。TCA回路の代謝物やアミノ酸に加えて、オリゴ糖や抗酸化物質であるアスコルビン酸やα-トコフェロールなどの増加が認められた。また、ABAも増加していた。一方、グルコースやフルクトースは減少した。

トランスクリプトミクス解析結果から、デンプンの合成、分解を、光呼吸、テトラピロール代謝、テルペン生合成に関わる遺伝子の発現がd975植物体で上昇していた。また、クロロフィル生合成、カロテノイド、ABA、α-トコフェロールに関わる遺伝子の発現もd975植物体で上昇した。TCA回路では、フマラーゼと2-オキソグルタル酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現がd975植物体で抑制されていた。

本論文の結果から、概日リズムの異常によって、TCA回路の代謝産物、ABA、抗酸化物質であるα-トコフェロールおよびアスコルビン酸が増加することが明らかになった。また、これらの代謝物の変動はトランスクリプトーム解析の結果によってもサポートされている。

論文中の代謝変動がd975植物体特異的か、あるいは概日リズムに異常がある植物体に共通しているかどうかについて明確するために、d975植物体以外で概日リズムに異常がある植物体を複数調べることが必要だと思います。

マウスや菌類ではすでに概日リズムと代謝の関係についてはすでに調べられており、今回植物でも同様な関係があることを明らかにしたという流れです。このストーリーでPNASに掲載されるレベルに仕上げるのは一般的に難しいです。同じデータを出しても、論文のストーリーなどによって掲載される雑誌のレベルは違ってきます。研究者にとって、よりよい業績を上げるために論文を書く技術は重要なファクターの1つです。

概日リズムに異常があるd975植物体でリンゴ酸、クエン酸などTCA回路の代謝物が上昇する理由として、考察ではフマラーゼと2-オキソグルタル酸脱水素酵素をコードする遺伝子の発現が抑制されているためであると指摘されていますが、詳細は明らかになっていません。TCA回路の代謝産物を上げるメカニズムが明らかになれば、植物のバイオマス増大にもつながると思います。

Impact of clock-associated Arabidopsis pseudo-response regulators in metabolic coordination.
Fukushima A, Kusano M, Nakamichi N, Kobayashi M, Hayashi N, Sakakibara H, Mizuno T, Saito K. Proc Natl Acad Sci USA, 106(17): 7251-7256, 2009

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