- 会期
- 2023年5月31日(水)~6月1日(木)
※HMTランチョンセミナー:5月31日(水) - 会場
- 愛媛県県民文化会館
- 住所
- 〒790-0843 愛媛県松山市道後町2丁目5-1
ランチョンセミナー
- 日時
- 2023年5月31日(水) 11:50~12:35
- 会場
- 愛媛県県民文化会館
- 演者
- 国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫TR分野 特任研究員
熊谷 尚悟 先生 - 演題
- 腫瘍微小環境における乳酸が導く免疫制御機構の詳細解明
- 要旨
- 腫瘍は生存・進展のために主に糖をエネルギー源として活用し、好気的解糖を促進させ低糖・低酸素・低pH環境を生み出す。抗腫瘍活性のためのエネルギー源を解糖系に依存しているエフェクターT細胞にとって、代謝的に厳しい腫瘍局所環境は好ましくなく、有効な抗腫瘍免疫応答が惹起されにくい。一方、制御性T細胞を始めとした免疫抑制性細胞集団は代謝的に過酷な腫瘍局所に浸潤し免疫抑制機能を発揮することができる。また、腫瘍解糖系の最終代謝産物である乳酸はT細胞の遊走性を低下させ、中でも抗腫瘍免疫応答に中心的な働きを担うCD8 T細胞内部において、転写因子NFATの活性化やサイトカインであるインターフェロンγの生産を低下させ殺細胞性を著しく失わせることが報告されている。一方で乳酸は免疫抑制性腫瘍関連マクロファージを誘導し、制御性T細胞の抑制活性を高めるなど、抗腫瘍免疫応答を様々な観点から抑制することが近年明らかになりつつある。
PD-1阻害治療を始めとした免疫チェックポイント阻害剤は様々な癌種に奏功することが知られているが、奏功率は十分であるとは言えず、患者層別化バイオマーカー探索や新規がん免疫治療開発の重要性が指摘されている。我々はこれまで、腫瘍局所におけるエフェクターT細胞と活性化制御性T細胞のPD-1発現バランスがPD-1阻害治療の有望な予測バイオマーカーとなることや、PD-1陽性活性化制御性T細胞の腫瘍局所への浸潤がPD-1阻害治療後のhyper-progressive diseaseを引き起こす可能性を報告してきた。制御性T細胞のPD-1発現機構に関しても徐々に検討がなされ、制御性T細胞内部の脂肪酸経路がPD-1発現に重要であることが報告されつつあるが、我々はHIF1α発現による解糖系が亢進する肝転移病変では乳酸産生が高まり、乳酸を介して制御性T細胞がPD-1を発現させICI治療抵抗性が生み出されることを明らかにした。本講演では腫瘍局所における乳酸代謝の観点からがん免疫治療耐性が生み出される機構に関して検討する。