第2回「これまでの研究手法とは何が違うの?」

他のオミクス解析との違いは?

メタボロミクス”っていう言葉もよく聞きますけど、関係あるんですか?

もともとメタボロームは”metabolite”(英語で代謝物質)にギリシャ語で「すべて・完全」を現す接尾語”-ome(オーム)”をくっつけてつくられた造語やねん。

“ゲノム”なら聞いたことあるやろ?これも”gene”(遺伝子)に”-ome”をくっつけた言葉やな。
さらに「学問」を表す接尾語”-ics”を足した”-omics(-ome + -ics, オミクス)”を付けた言葉が”ゲノミクス”とか”メタボロミクス”で、遺伝子や代謝物質を「網羅的に」解析する研究分野のことやな。

英語でメタボロームは”the complete set of small-molecule metabolites”と説明されてて(wikipediaより)、日本語では”(低分子)代謝物質の総体”と訳されることが多い。
単なる”small-molecule metabolites”との違いが難しいけど、”オミクス”という概念では、全体の中での一個一個の代謝物質よりも、代謝を全体として捉えることのほうを重視した言葉なんやな。

こういう、一個一個じゃなくて、全体を解析する方法が”オミクス解析”で、”メタボロミクス”はここ10年位で発達した、最新のオミクス技術や。

最新ってことは一番”いい”んですか??

ううん、オミクスは用途次第でどれが”いい”とかそういうことじゃないねん。百年前のクラシックも、最新のポップスも、どっちが”いい”ってことはないやろ?

遺伝子の情報が、実際に髪の色とか太ってるとかいうヒトとしての形態や機能の特徴(表現型)として現れてくるまでいくつかのステップ(DNA→mRNA→タンパク質→代謝物質)を踏む。

その中でもメタボロミクスの特徴はその中でも表現型に最も近い情報であるっていうことかなあ。
オミクスの階層

つまり、、、どういうこと?

生命にはホメオスタシス(恒常性)っていう、「ある程度の刺激に対しては表現型の変化を小さくしてなるべく一定でいよう」という働きがあんねん。

情報伝達の上流である遺伝子の発現量やタンパクの活性には変化があっても、表現型はほとんど変わってないっていう報告もある(PubMed)。

一般的に、メタボロームの変化は上流に比べて小さく頑強(ロバスト)やと言われていて、それでも現れた変化はホメオスタシスを乗り越えたひずみ、つまり表現型に直結したシグナルやってことや。

ホメオスタシス

メタボロームから何が分かるのか?

なんかすごそうですね~!
メタボロミクスやったら何でも分かるってことなんですね!

残念ながらオミクスはそこまで万能じゃないねんな。

一般的にオミクスは、相対比較を目的とした”スクリーニング手法”やから、一つの測定結果だけを考えるよりも、他と比べて「何がどれくらい違うか?」を見つけ出して、そこから考察する使い方が一番有効なんちゃうかなあ。

もちろんこれといった決まりはないから、自分のサンプルや身近にあるものにどんな代謝物質が含まれているのかを調べたり、未知の成分を発見するためにも使えるで。

うーん、、結局これまでと何が違うんでしょうか…?

従来は、まず仮説を立てて、それを証明する”仮説検証型”の研究が多かってん。

でもメタボロミクスをはじめとしたオミクス解析は、それと同時に「予想した変化に伴う予想できなかった現象も発見できる」という利点がある。得た膨大なデータをもとに全く新しい仮説を導くこともできる、”データドリブン”な解析法やねん。

新しい測定装置が開発されて、コンピューターの情報処理能力が大幅に向上したし、DBも豊富になったからこそできる研究スタイルやな。

遺伝子が最近発見されてゲノミクスができるようになったっていうのは納得なんですけど、代謝物質も昔は研究できなかったんですか?
アミノ酸とか、昔からよく研究されてたような…

もちろん代謝物質の存在は昔から知られていて、代謝研究自体は盛んやったけど、「色々な物性を持つ代謝物質を一度に測定する」ことが難しかってんな。

実はかの有名なノーベル賞学者であるポーリング博士もその有用性を予言して実際にチャレンジして、次のような言葉を残してはる。

“Information about the genetic nature of an individual human being, as reflected in the rates of various chemical reactions that take place in his body, usually catalyzed by enzymes, could be obtained by the through quantitative analysis of body fluids. Moreover, the through quantitative analysis of body fluids might permit differential diagnosis of many diseases in a more effective way than is possible at the present time.”

“ひとりの人間の遺伝的性質に関する情報は、その身体で起きている多くの化学反応速度の反映であることから、体液の定量的分析を通して与えられる。さらに、体液の定量的分析を通して、現在よりもより効果的な方法で多くの疾病の診断を行うことができるかもしれない”

linus pauling — Linus Pauling, 1971

代謝の全体を捉えるという研究は、多くの研究者にとってはずっとやりたくてもできなかったものやったとも言えるかもしれへんな。
メタボロ太郎-喜ぶ
それが今はできるようになったんですね!
分析技術の発達したからこそやな。それに、最近では受託サービスとしてお手軽に使えるようにもなってんで。
知ってます知ってます。ヒューマンメタボさんでしょ?
うん、営業さんを叱っとかなな。。ただしくは「ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(株)」や。
えーと、、、ヒューマンメタボ…メタボ…
・・・HMTでいいです。。
えいち えぬ ぴー?
エイチエムティー や!

第2回のまとめ

  • メタボロームは代謝物質の総和。メタボロミクスはその解析法
  • 代謝は表現型に近いので、その変化を解釈しやすい
  • 相対比較のスクリーニングが主な用途だが、その他さまざまな目的にも応用できる
  • メタボロミクスの受託解析なら「HMT」

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